「生きる力」とSTEAM教育。デジタルネイティブが身に付けるひらめきと思考力

2023.12.28

これからのIT社会を生き抜くうえで、いちばん必要なものは何でしょうか? パソコンやインターネットを使いこなすスキル以上に求められるのが、ひらめきや想像力だといわれています。このような力を育むのに役立つと期待されているのがSTEAM教育です。すでに始まっているSTEAM教育の特徴と事例を紹介しつつ、子どもたちにとって本当に必要な「生きる力」とは何かを考えます。

理数+アート!? STEAM教育が目指すプログラミング的思考

STEAM教育は、Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学)・Art(芸術)・Mathematics(数学)という5分野を横断的に学ぶ教育で、1990年代にアメリカで始まった前身のSTEM教育からSTEAM教育へと移行し、今では多くの国で取り入れられています。

STEAM教育の目的は一言でいうと「プログラミング的思考を養う」こととされています。文部科学省ではこれを「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」と説明しています。

つまり、目的地(解)に効率よく到着するには何をどのようにすればよいかを論理的に考えられる力ということです。こうした能力は、単に数学や科学の公式を覚えるだけでは身に着けることはできません。

STEAM教育では最短で最適解を出すことだけではなく、目的のために手順を考え、シミュレーションし、試行錯誤しながら答えに辿りつく過程や、その表現の工夫をも大切にします。加えてArt、つまり芸術やリベラルアーツ、いわゆる「文系分野」を総合的に学ぶことで、想像力やひらめき、思考力を養い、さらには上手に自分の考えを表現できる、国際競争力のある人材へと成長することを目指します。

IT社会で生きる力を養う! デジタルネイティブにSTEAM教育がなぜ必要か

今の子どもたちは生まれた時からパソコンやスマホが身の回りにあるデジタルネイティブ世代です。それでもSTEAM教育が必要だといえるのにはいくつか理由があります。

ひとつは深刻なIT人材不足です。経済産業省の資料によると、2030年には約79万人ものIT人材が不足すると試算されています。しかし子どもたちの理系離れ・理系嫌いは依然として続いており、小中学生を対象にした国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の調査では、「算数・数学は楽しい、得意だ」と答えた子どもの数は前回調査より増えているものの、国際平均を下回っています。その原因として、理解を無視した暗記教育に問題があると指摘する人もいます。また、男女共同参画局の調査では、理工系分野での女子大学生の割合が15%〜30%以下と低く、その理由としてアンコンシャスバイアスがあることも考えられます。しかし、内閣府の行った女性の理工系分野への進路選択についての調査では、幼いころに、科学館や博物館に行く、工作やプログラミングをするといった理系的な経験が多かった人ほど理工系分野を志望していることがわかっています。理数系の楽しさ・面白さを知り、IT系の職業を目指す人材を育てることは国際競争力という点においても重要な課題です。

また今後、多くの仕事がAIに取って代わられる可能性も指摘されています。日本の「労働人口の49%の仕事がAIに代替可能」と予測される社会で活躍するのは、機械には不可能な新しい発想で、新しいシステムを生み出せる人材でしょう。AIと共存するためにも、STEAMで学ぶ想像力や表現力、思考力が求められるのです。

今の社会でも、テクノロジーで解決できる多くの社会問題があります。文系・理系を超えた視点とスキルを持つ人材はますます必要であり、プログラミング的思考を養うSTEAM教育は今の子どもたちにこそ大切な教育だといえるのです。

STEAM教育で変わるものとは? 取り組み事例と残る課題

STEAM教育はすでに多くの国で導入されています。先進的にSTEAM教育を実施しているアメリカは、前身であるSTEM教育の頃から毎年多額の予算を投入し、国家戦略として取り組んでいます。2018年には「STEM教育戦略」を打ち出し、2年後までにSTEM教育を指導する教師を10万人養成、高校卒業までにSTEM教育を受ける生徒を50%増加させることなどを目標に掲げました。

シンガポールも人材育成のための教育に力を入れています。2014年には中学生にSTEMプログラミングを提供するための組織を立ち上げました。関連分野のスペシャリストが所属し、学習支援を行っています。中国では2010年から大都市でイノベーション人材輩出を目指し、STEM教育を実施しています。

日本では、2002年度から文部省がSSH(スーパーサイエンスハイスクール)を支援しています。全国で200以上の指定された高校が先進的な理数教育、国際性を育む取り組みを推進しており、すでに多くの卒業生が大学や企業の研究室で活躍中です。経済産業省が運営するSTEAMライブラリーや、科学技術振興機構が始めた「科学の甲子園」などもSTEAM教育を支援する取り組みです。2020年からは小学校でプログラミング教育が必修となり、いよいよSTEAM教育が本格化しました。

今後も推進されるSTEAM教育ですが、解決しなければいけない点として、専門知識を持った教員の確保と、家庭の経済状態による環境の格差などが挙げられ、この問題は大きな課題となっています。

まとめ

デジタルが当たり前にある生活のなかで、単にコンピュータを扱えるスキルを身につけるだけでなく、想像力やひらめき、思考力、表現力を養うSTEAM教育は、教育の枠だけにとどまらない重要な教育です。STEAM教育は改善を重ねつつ、日本の子どもたちがこれからの社会を生き抜く力を養うのに必須の力となっていくでしょう。

[参考]
文部科学省:
https://www.mext.go.jp/content/20200218-mxt_jogai02-100003171_002.pdf
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/other/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/06/06/1405844_001.pdf
https://www.mext.go.jp/studxstyle/index3.html

経済産業省:
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/houkokusyo.pdf#page=5
https://www.steam-library.go.jp/

男女共同参画局:
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r01/zentai/html/honpen/b1_s00_02.html

国立研究開発法人 科学技術振興機構:
https://crds.jst.go.jp/dw/20190222/2019022218362/
https://www.jst.go.jp/cpse/ssh/index.html
https://koushien.jst.go.jp/koushien/

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