リプロダクティブヘルスライツとは。進む、女性の医療と権利

2023.9.1

「お子さんはまだ?」このような声掛けはNGであることが最近よく知られるようになりました。「子どもをいつ産むか」「何人産むか」、そもそも「子どもを産むか、産まないか」、抑圧されることなくこれらを自分で決定できる自由を持つ女性は、それほど多くはありません。『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』では、これらを決めるのは女性の権利であるとしています。この概念がなぜ重要なのか、そしてリプロダクティブ・ヘルス/ライツを実践するために、どのような取り組みが行われているかを解説します。

女性の権利「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」とは? その定義と背景

「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(Reproductive Health and Rights)」という概念は、1994年にエジプト・カイロで開催された「国際人口・開発会議」で提唱されました。「リプロダクティブ」は「生殖」という意味なので、日本では「生殖に関する健康と権利」と訳されています。

この「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(生殖に関する健康と権利)」のうち「リプロダクティブ・ヘルス(生殖に関する健康)」とは、女性が妊娠・出産の過程を健康的に過ごすことなどを指します。単に病気にかからないというだけでなく、「身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態(well-being)で遂行されること」と定義されています。
また女性は、女性という性であるために、妊娠・出産の有無にかかわらず、キャリアや健康などの面で身体的・精神的・社会的に男性とは異なる影響を受け続けます。そのため、「リプロダクティブ・ヘルス」には生涯を通じた女性の心身の健康支援が含まれています。

一方、「リプロダクティブ・ライツ(生殖に関する権利)」とは、生殖に関して女性が自分の意思で選択・決定できる権利です。1995年の北京国連世界女性会議で、「女性の権利は人権である」「女性及び女児がすべての人権及び基本的自由を完全に享受することを保障する」など、女性の人権の推進と保護について確認されています。具体的には、「妊娠する・しない」「子どもを産む・産まない」「産むとしたらいつ・何人産むか」などを、女性が自分で決められる権利のことです。

この概念が重視されるようになった背景には、途上国において人口抑制のために女性の意思を確認せず避妊や中絶が行われていたことや、60年代に起きた女性運動などが影響しています。
今では多くの国で、この取り組みの重要性が注目されるようになりました。




知識と情報がカギ――性と生殖に関するリプロダクティブ・ヘルス/ライツの施策

リプロダクティブ・ヘルス/ライツの提唱から約30年、生殖に関する女性の健康と権利は守られるようになったのでしょうか? 残念ながら、性暴力や売買春、強制婚などの犠牲になる女性は後を絶ちません。コロナ禍では、世界で女性や女児に対する暴力や性暴力などが増加したことが知られています。
意図しない妊娠で女性の教育や就労の機会が奪われてしまうことは、今もなお大きな問題となっています。

性暴力などの被害にあってしまった場合に、意図しない妊娠を防ぐための選択肢の1つとして緊急避妊薬の服用があります。緊急避妊薬はアフターピルともよばれ、性交の直後〜72時間以内に服用することで、高い確率で妊娠を防ぐものです。アメリカ、イギリス、ドイツ、フィンランド、インドなどの国々では若年層や貧困層には公的な支援で無償や低価格で購入が可能ですが、日本では金銭面やアクセスの困難によりハードルが高いのが現状だといえます。

また、合意の上での性行為においても、避妊の失敗など、意図せず妊娠する場合もあります。これを防ぐためにも、避妊の選択肢は多いことが望ましいですが、日本は海外に比べ普及している避妊手段が少なく、さらに若い世代が比較的使用しやすい低用量ピルの普及率は1〜3%程度にとどまっています。

このような現状を受け、日本でも女性が主体的に避妊するための取り組みや、性と生殖に関する情報・知識の普及、支援が求められており、すでにさまざまな取り組みが進められています。

例えば、緊急避妊薬については、よりアクセスを容易にするため、処方箋なしで対象薬局で購入できるようにする試験運用の実施が決まっています。また、若い世代への支援として生理用品の無料提供なども始まっています。

さらに各都道府県、市町村等には、女性センターや男女共同参画センター、配偶者暴力相談支援センター等が設置され、女性が相談できる体制も整備されつつあります。こうしたサポートについて、もっと気軽に相談や支援が受けられるように周知にも力を入れています。

そして前述のように、リプロダクティブ・ヘルス/ライツには、女性の生涯にわたる健康支援が含まれます。保健所や保健センターでは、更年期障害や子宮頸がんなど女性特有の病気について情報を提供しています。喫煙や飲酒、摂食障害、薬物の影響について様々な啓発運動も行われており、健康相談や訪問指導を通して、成人期・高齢期の健康づくり支援も推進されています。




まとめ

女性が一人の人間として、自分の人生を自分で決定する――。当たり前のように聞こえますが、現実には女性というだけで社会的な抑圧にさらされ、不平等や不利益を被っている人が世界中に存在しています。一人ひとりが「リプロダクティブ・ヘルス/ライツは、社会全体にとってプラスになる概念である」という認識を持ち、社会気運を熟成していくことが急務とされています。



[参考]
内閣府男女共同参画局:
https://www.gender.go.jp/international/int_standard/int_4th_beijing/index.html
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r03/zentai/html/honpen/b1_s00_02.html
https://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/1st/2-8h.html

公益財団法人 日本女性学習財団:
https://www.jawe2011.jp/cgi/keyword/keyword.cgi?num=n000024&mode=detail&catlist=1&onlist=1&alphlist=1&shlist=1

国連人口基金:
https://tokyo.unfpa.org/sites/default/files/pub-pdf/swop2022_jpn_excerption_0.pdf

日本赤十字社:
https://www.jrc.or.jp/international/pdf/24e1d6850c2b8309e9f0b88e8605282fa0480c12.pdf

朝日新聞デジタル:
https://www.asahi.com/sdgs/article/14730505#h202sl8mxyej11wywpcm1a9z2j1uxvfqb

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