「浮きこぼれ」で学力の高い子どもが経験する学校のつまらなさや不登校。教育を受ける権利とは?

2023.10.31

高い知能をもちながら学校になじめない、他の子どもたちとうまくいかない…。学力や知能の高い子がしばしば抱えがちな問題です。こうした子どもは学校がつまらないと感じたり、落ちこぼれならぬ「浮きこぼれ」を経験したり、不登校になったりするケースもあります。高い学力をもつ子だからこそ抱える悩みと、彼らの「教育を受ける権利」をどのように守ればよいか解説します。

落ちこぼれならぬ「浮きこぼれ」とは? クラスに馴染めない高学力の子ども

「授業が簡単すぎてつまらない」という子どもがいると聞くと「贅沢な悩み」と思ってしまうかもしれません。しかし、こうした子どもとその家族は深刻な問題を抱えていることがあります。その問題のひとつが「浮きこぼれ」です。

高い学力を持つ子は、学校の授業内容をあっという間に理解してしまいます。なかには、自分で勉強してすでに授業内容を理解している子どももいます。こうした子どもにとって、朝から夕方まで続く授業は知識欲が満たされない退屈な時間でしかありません。

日本の義務教育は、全員が同時に、そして平等に同じ内容を学んでいます。16歳になれば高等学校卒業程度認定試験(略称:高認)を受けられますが、たとえ合格しても、飛び入学制度があるごく少数の大学以外では18歳まで大学受験はできません。一斉授業についていけない子どもを「落ちこぼれ」と呼ぶことがありますが、一方で学力の高さゆえにクラスに馴染めず、疎外感を感じている子どもを指すのが「浮きこぼれ」、あるいは「吹きこぼれ」なのです。

こうした子どもたちの中には、特異な才能のある「ギフテッド」もいます。ギフテッドの明確な定義は日本にはありませんが、これまではIQ130以上がひとつの基準として設けられてきました。近年では、IQだけではなく定性的に評価するようになってきており、米国では学齢期の子どもの約6%、日本でも約2%の子どもがその対象であるといわれています。50人に1人は存在することになり、飛びぬけて高い知能を持つ子は決して珍しい存在ではありません。

対人トラブルや不登校も 高学力やギフテッドだからこそ抱える問題とは

高学力の子どもは、他にもさまざまな問題を抱えがちです。授業の雰囲気を壊さないため、わざと分からないふりをしたり、テストを白紙で提出したりすることがあり、それは本人にとって大きなストレスになります。先生から勉強が苦手なクラスメートの「お世話係」をお願いされる子もおり、苦痛を感じる子もいます。このような「お世話係」に割かれる時間は高学力の子の学ぶ機会を減らしてしまうほか、不要なトラブルにも繋がる恐れもあります。

こうした子どもたちの中には、非効率的・不合理と思えるルールに従うことを難しく感じる子もいます。例えば「まだ習っていない漢字を書いてはいけない」「習っていない方法で問題を解いてはいけない」と言われると、強い不満やストレスを感じたり、反対に、ルールを守ることに厳格になり過ぎてルールを守らない他の子にイライラすることもあり、その結果、集団生活に馴染めずにいじめや不登校に陥ってしまうケースもあります。

さらに、過度激動と呼ばれる特徴を持つ子もいます。過度激動では好奇心や探求心が非常に強い一方、特定の音や状況に対して強い不快感や恐怖を抱き、激しい喜怒哀楽を示したりする特徴があります。
こうした特徴は、ADHD(注意欠如・多動症)や、いわゆるアスペルガー症候群などを含むASD(自閉スペクトラム症)といった発達障害(神経発達症)と類似しており、なかには発達障害とギフテッドを併せ持つ子(2E型)も存在します。しかしどちらも、周りから理解されづらいのが現状です。

また、発達障害のなかでも高知能の場合は障がいに気づかなかったり、公的な支援を受けることが難しく、見過ごされてきました。このため、誰かに相談することができないまま本人や家族がつらさを抱え、孤独や疎外感を感じるケースもあるといいます。



浮きこぼれを経験する子どもにはどう接する? 教育を受ける権利を守る方法

こういった子どもに対して、どのような対応が考えられるのでしょうか。一部の学校では、高学力の子どもたちを対象にギフテッド教育など、特別カリキュラムを導入しています。また、こうした特別なプログラムを実施していなくても一人だけ別内容を勉強することを許可してもらえるケースもあり、学校と保護者の連携が欠かせません。

もし、浮きこぼれを経験した子どもが「学校に通わない」という選択をする場合にも、可能な限り学びの場を見つけ、その子の知的好奇心を守る必要があります。学校以外にも、ホームスクーリングや塾、オープンスクールなどもあり、また、自治体やNPO法人、民間企業など、支援団体による教育プログラムを利用することもできます。

大切なのは、子どもの気持ちや悩みを否定しないことです。すべての子どもには教育を受ける権利があります。一斉授業についていけない子と同じように、「浮きこぼれ」の子もサポートが必要な子どもであると考え、学校でも家庭でも安心して学べる環境をつくりたいものです。

また、すべての子どもたちに、多様性を尊重することの重要性を教えることが大切です。
クラスの中では、それぞれが持っている能力、子どもたちを取り巻く環境や状況もさまざまです。クラスメートの違いを受け入れ、一人ひとりがみんなと違っていても良いということを教え、学ぶ必要があるでしょう。


まとめ

「浮きこぼれ」で子どもや家族は苦しさや大きなストレスを抱えています。そうした家族を含め、誰もが自分の能力を発揮し、誰も取り残されない社会を実現するためには、まず大人である私たち自身がお互いの違いを知って多様性を尊重し、子どもの教育を受ける権利を守りたいものです。

[参考]
文部科学省:
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/169/index.html
https://www.mext.go.jp/content/20211105-mext_kyoiku02-000018576_01.pdf

ユニセフ:
https://www.unicef.or.jp/kodomo/kenri

NHK:
https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/584/

東洋経済ONLINE:
https://toyokeizai.net/articles/-/602758

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