ヤングケアラーとは。家族観というアンコンシャスバイアス

2023.8.4

学校で勉強し、友達と遊び、家で宿題をする――。こうした「当たり前」と思える生活ができない子どもたちがたくさんいます。なかでも大人に変わって家事や家族の介護を日常的に担う「ヤングケアラー」と呼ばれる子どもたちは「家族の世話をするのは当然」という意識に阻まれ、周囲に助けを求めることができません。

これまで見過ごされてきたヤングケアラーですが、近年、関係機関が連携して支援につなげる仕組みが整ってきました。ヤングケアラーの実態と彼らが抱える問題、そしてヤングケアラーをサポートするための取り組みについて紹介します。

ヤングケアラーとは? 見えにくい実態

ヤングケアラーとは「本来大人がやると想定されるような家事や家族の世話を行っている18歳未満の子ども」と定義されています。

ヤングケアラーたちは病気や障がいのある家族に代わり、買い物や料理、掃除などの家事を行いながら看病や介護を行っています。ほかにも、アルコールやギャンブル依存など問題がある家族への対応や、日本語があまり話せない家族に代わって通訳をしたり、兄弟姉妹に障がいがある場合に介護をするなど、子どもが大人に代わって家族の世話を行うことがあります。

ひとり親家庭や多子家庭の場合には、幼い弟妹の見守りや保育園への送迎など、ヤングケアラーがやらなければならない仕事はたくさんあります。
ヤングケアラーが行っているのは、いわゆる「親のお手伝い」といったレベルではありません。厚生労働省の発表では、ヤングケアラーは平均すると1日に4時間をそのような世話に費やしており、「7時間以上」と答えた子どもも1割います。

「家のお手伝い」と違い、「ケア」を行っているこうした子どもたちは、私たちが想像している以上にたくさん存在しています。同じく厚生労働省によれば、「世話をしている家族がいる」と答えた子どもは、小学生で6.5%、中学生で5.7%、高校生で4.1%でした。約20人〜25人に1人なので、1クラスに1人か2人の割合でヤングケアラーがいると考えられています。

ヤングケアラー対策を強固に阻むアンコンシャスバイアスとの交差性

ヤングケアラーには様々な問題が関係しています。前述のように、学校から帰って4時間も家族の世話をすれば、遊ぶ時間はもちろん、宿題をする時間もなくなり、睡眠不足から遅刻や欠席が増え、学業や健康状態にも影響が出てきます。友人と共通の話題が少なくなるため、コミュニケーションが減って孤立する恐れもあります。このような家庭環境は金銭的な問題を抱えていることも多く、その後の進学や就職、結婚にも影響を及ぼしてきます。

2020年に埼玉県が実施した調査によると、ヤングケアラーの男女比は男性が約4割、女性が約6割となっており、男性より女性の方が多くの役割と負担を求められる傾向があります。



さらに親や周囲から押し付けられた、「家族の世話をするのは当然」という家族観・固定観念によって身に付いた「アンコンシャスバイアス」が、ヤングケアラー対策を難しくしています。ヤングケアラーの周囲の人々だけではなく、ケアラー本人がそう感じていることも少なくありません。ケアをしたくないという気持ちは周囲に受け入れられないことがわかるため、ケアをしていることを友だちや周囲に隠そうとしたり、SOSを出すことを思いつかない、または諦めてしまう子どもさえいます。実際に、ある調査では、ヤングケアラーの7割が「誰にも相談していない」と回答しています。

第44回国連総会で採択された「子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)」には、世界中すべての子どもたちがもつ権利が明文化されており、そのなかには「教育を受ける権利(第28条)」や「休み、遊ぶ権利(第31条)」も含まれています。本人や周囲がどう感じているかに関わらず、家族の世話は決して「子どもが当然やるべきこと」ではないのです。
子どもの当たり前の権利を守るために、どんな取り組みが行われているのでしょうか?

ヤングケアラーが声を上げやすい社会を作るために

2021年、政府はヤングケアラーを支えるための支援策を発表しました。これには、教育関係者や医療・介護関係者が研修などを通してヤングケアラーへの理解を深め、早期把握に努めることや、子どもがより相談しやすいSNSなどの窓口を開設、家事や育児、介護を支援するサービスを提供することなどが含まれています。

2023年には子ども家庭庁も発足しました。まだ発足したばかりの機関ですが、今後、地方公共団体や教育機関などと連携し、子どもの最善の利益を優先できるよう、必要な措置を取ることが期待されています。

自治体レベルでもヤングケアラー支援は始まっています。大阪市は2022年度、ヤングケアラー支援に4億円近い予算案を計上し、神戸市では専用窓口を設置しました。現在、都道府県や政令市など20近い自治体でケアラー支援に関する条例が制定されており(2023年3月31日時点)、相談窓口も増加しています。
京都府はヤングケアラー支援のため、2022年にヤングケアラー総合支援センターを開設しました。関係機関が連携し、ヤングケアラーを支援につなげられる仕組みを作っています。

もし、ヤングケアラーだと思われる子どもに気づいたらどうすればよいのでしょうか?
近所で「学校に行っているべき時間に学校以外で見かけることがある」「幼い弟妹の送迎など、一緒にいるところを日常的に見かける」「家族の介助や付き添いをしている姿を度々見かける」などの子どもを見かけたら、挨拶程度でも声かけをすれば、自分を気にかけてくれている人がいることを知って安心するかもしれません。その際に「面倒をみて偉いね」「子どもに面倒見てもらって幸せだね」などの声かけは、褒めているつもりでも、子どもはさらに追い詰められてしまって「つらい」と声を上げられなくなることにつながってしまう恐れもあります。
支援はケアラー本人と家族の意思を尊重し、関係機関と協力しながら進められていきます。挨拶から会話につながるようになったら「何か方法はないかな」と支援への提案ができることが理想です。




まとめ

ヤングケアラーは成長や発達の段階で過度なストレスを受け続け、その後の人生において精神的に大きな影響を受けるケースが多いといわれています。
子どもに限らず、すべてのケアラーと家族への十分な支援体制を整えることが、ヤングケアラー問題への根本的な解決策となります。それまでの間、子どもたちが自分たちの権利を守れるために、いつでも手を差し伸べられるよう注意深く見守り続けたいものです。




[参考]
内閣府男女共同参画局:
https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/seibetsu_r03/02.pdf

厚生労働省:
https://www.mhlw.go.jp/content/000780549.pdf

こども家庭庁:
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/

京都府:
https://hitorioya.kyoto/ycarer/
https://www.pref.kyoto.jp/kateishien/youngcarer.html
https://www.pref.kyoto.jp/kateishien/documents/dougasiryo.pdf

三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」:
https://www.center-mie.or.jp/frente/data/zemi/detail/922

一般社団法人ヤングケアラー協会:
https://youngcarerjapan.com/

一般財団法人 地方自治研究機構:
http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/023_carersupport.htm

NHK首都圏ナビ:
https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20210601yc_a01.html?f=wr-20210608yc
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20210707yc_a01.html

神戸新聞NEXT:
https://www.kobe-np.co.jp/rentoku/omoshiro/202106/0014434655.shtml

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