子育て、介護は個人の問題? 働き方改革とともに企業の福利厚生が変わるワケ

仕事との両立が難しいと感じる問題のなかに、子育てや介護があります。「これは個人的な問題だから、自分が頑張って乗り越えるべき」と考える人もいますが、本当にそうなのでしょうか? 「The personal is political(個人的なことは政治的なこと)」という考え方がありますが、近年では社会や企業が積極的な支援に乗り出し、少しずつ変わりつつあります。子育てや介護を社会の課題として捉えることで、どのような問題が解決するかを考えます。

子育て・介護は個人の問題? 日本に根強い「自己責任論」が招く弊害

今、子育て中の母親の4人に3人が仕事を持っており、また、働きながら介護をしている人は300万人にものぼります。さらに育児と介護の両方を担う、いわゆる「ダブルケア」を行っている人は約25万人おり、その8割が女性だとされています。女性に負担がかかっているのは、ジェンダーロールの影響かもしれません。

学校行事が立て続けにある新年度は特に休みを相談しにくい、仕事が忙しいときに合わせるかのように子どもたちが順番に熱を出す、朝の忙しい時間に子どもが保育園に行き渋る。こうしたさまざまな出来事に、慌てて仕事をやりくりして綱渡りのように過ごす…。育児や介護と仕事との両立は苦労が多いものですが、周囲からは「自分で選んだのだから」と心無い言葉を言われることもあります。日本は自己責任論と家族観の強い国で、子育てや介護などは個人的なことであり、どんなに大変でも自分で頑張って家族の中で何とかすべきと考える人が多いものです。

その一方で、毎年約15万人が出産・育児のために、10万人以上が介護・看護のために離職しています。離職して収入が減ることで心身の負担が増えたり、孤立して精神的に追い詰められるなど、新しい問題が発生することも珍しくありません。働き盛りの社員を失うことは、会社にとっても大きな損失です。

これほど多くの人が育児や介護を行いつつ、仕事を続けることが困難に感じるのはなぜでしょうか? 大きな原因として、育児や介護を優先するか、それとも仕事を優先するかという二者択一を女性に迫る社会構造が挙げられます。

「The personal is political(個人的なことは政治的なこと)」は、1960年代の女性運動で掲げられたスローガンですが、育児や介護など多くの人が困っている「個人的なこと」を自己責任論で片づけるのではなく、社会構造的になんらかの不備が根底にあると社会全体の課題としてとらえることを示しています。そうすることで、多くの同じ状況にいる人が救われ、さらに経済発展にもプラスになることから、政府や企業主導で解決しようとする動きが活発化しています。



働き方改革、育児介護休業法、福利厚生―変化する社会のライフサポート

こうした流れを受け、企業や政府もライフサポートに力を入れ始めています。そのひとつが、2019年から施行されている「働き方改革」です。時間外労働の上限規制や、有給休暇取得の義務付けなどが定められました。

そして2021年には「育児・介護休業法」が改正されました。代表的な制度が「育児休業」ですが、2022年からは父親にも適用されるようになりました。これまでは制度があっても取得しにくいという声も多かったため、父親が育児休業を申出しやすい職場環境等の整備を企業に求めたり、母親がキャリアを築けるように母親ひとりだけに負担をかけないという雰囲気の醸成に向けた内容になっています。1歳になっても保育所が見つからないなどの場合は最長2歳までは延長可能で、子どもが病気やケガをしたときには「子の看護休暇」制度を利用すれば子ども1人に対し5日間の休暇を取得できます。ほかにも、子どもが3歳未満の場合は「短時間勤務制度」を利用することができます。

要介護※の家族がいる場合は、「介護休業」制度や「介護休暇」制度が利用できます。「介護休業」制度は、通算93日間の休業を3回まで分割して取得でき、「介護休暇」制度は、有給とは別に1年で10回まで病院や施設の送迎などに休暇を取得できます。

※要介護状態…負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態

家族に関わる問題をより具体的にサポートするサービスなど、企業独自の福利厚生も取り入れられつつあります。社内に育児施設を設置したり、子育てや介護、病気について専門家に相談できるサービスや保育料や家事代行利用料の補助制度を設けた企業が増えてきました。また、自治体が行っているパパ向けの育児講座や夫婦のパートナーシップのための講座に参加し育児を自分ごととしてとらえ、予防接種や乳幼児健診に行く父親も増えています。さらには子ども連れのスペースができるなど、これらの課題を社会の問題として捉える動きから、環境も徐々に変わりつつあります。

子育てや介護と仕事の両立は個人の努力で実現させるのではなく、企業ぐるみ、社会ぐるみで支援すべき問題であるという意識が浸透しつつあります。


社会・企業のサポートが後押し! 子育て・介護と仕事の両立実現へ

子育てや介護を、政治・社会の問題として捉え、さまざまな制度やシステムを整えることは多くのメリットがあります。まず、こうしたシステムやサービスを利用すれば、当事者が仕事を続けやすくなります。離職を防ぐことができれば、企業にとっては経済的損失を防ぐことにもつながります。

また、制度を取り入れることで企業は「両立支援等助成金(出生時両立支援コース)」「両立支援等助成金(育児休業等支援コース)」などの助成金を国から受けることもできますし、育児・介護と仕事の両立に向けて手厚い支援を行う企業は社員をサポートしながら社会的イメージを向上させることもできます。

もちろんこうした制度を整えても、働く人が利用しなければ意味がありません。子育てや介護は自分が実際にその立場になってみないと分からないことが多いもので、制度についてよく知らない人からの無理解や心無い言葉の投げかけを防ぐことも重要です。

企業自体も、子育てや介護支援に関する自社の情報を積極的に発信する必要があります。その時になってからではなく、早期から上司や社員同士とのコミュニケーションが取りやすい雰囲気を作り、性別を問わず制度を利用できる社内環境が大切です。子育てや介護は、その人だけが頑張ればいいという個人の問題ではなく、家族を企業ぐるみで支援するという姿勢を打ち出すことが必要でしょう。


まとめ

育児や介護は、それだけでも本当に大変なものです。そのうえで仕事を続け、キャリアを形成していくためには社会や企業の支援は欠かせません。いつか自分ごとになったときのためにも、周囲の人と協力し合い、誰かがひとりで頑張らなくてもよい社会を作るために貢献したいものです。

[参考]
内閣府 男女共同参画局:
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h29/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-03-12.html
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/zentai/pdf/r05_tokusyu.pdf
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/report-13/h_pdf/s4.pdf

厚生労働省:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000685055.pdf
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000158147.pdf

国立研究開発法人 物質・材料研究機構:
https://www.nims.go.jp/nims/activity/equality/hdfqf10000006r3o-att/lecian00001ahf4e.pdf

日本経済団体連合会:
https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/129_honbun.pdf

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