ジェンダーロールにジェンダーバイアス? 社会的文化的な「ジェンダー」とは

社会的・文化的に作られた性差――、つまりジェンダーは、私たちの意識に溶け込み、その結果、性別を理由に機会を奪い、知らず知らずのうちに多くの人の生き方を制限しています。今回は、私たちが気づきにくいジェンダーバイアスについて見つめ直し、男女平等な社会のために何ができるかを考えます。

「性差」はどこから? ジェンダーバイアス、ジェンダーロールとは

生まれたときの体のつくりや機能、染色体など、生物学的・医学的知見に基づいて判定されている「男・女」という性別を、生物学的性差(sex)といいます。一方、ジェンダーは社会的・文化的な影響によって作られた性差のことです。固定的でステレオタイプな男性像・女性像をジェンダーバイアス、性別に基づいて期待される特定の行動や役割をジェンダーロールと呼びます。

よくあるジェンダーバイアスとしては、「男子は青色が好きで算数や理科が得意」「女子はピンクが好きで料理が得意」といった思い込みです。典型的なジェンダーロールには「男性(夫)は外で働くもの」「女性(妻)は家で家事をして、子どもを育てる」など、役割の固定観念が挙げられます。「家内」や「奥さん」などの呼称は、「妻は家の中にいる人」であるという、役割の固定観念が含まれているものといえます。
また、本や映画で登場する人物が「〜だぜ。」と言えば男性、「あら、〜だわ。」なら女性キャラクターの発した言葉だと思い浮かべるでしょう。これらの男ことば・女ことばは役割語とも呼ばれています。
こうした考え方は社会のすみずみに染み込んでおり、私たちは無意識のうちに「男性だから・女性だからこうあるのが普通」という周囲からの価値観を押しつけられてきました。その多くは自然なものでも正当なものでもありません。「男性と女性では脳の作りが違う」、または「太古、男は狩りに出かけ、女は家を守っていたので、性別によって役割が違うのは「自然」なこと」という説もありますが、それは事実なのでしょうか?

近年の研究では男女の脳にはそれほど大きな違いはなく、むしろ個人差のほうが大きいことが発見されました。特に数学や言語能力、リーダーシップなどの分野では男女差はなく、男性脳・女性脳は神話だと考える研究者さえいます。筋力面で男女差があるのは事実ですが、ジェンダーロールを正当化するほどのものではないことが分かってきました。

ジェンダーバイアスが引き起こす問題とは? 世界と日本のジェンダー事情

日本で男女の区分が明確になったのは、一説では7〜8世紀に戸籍が作られた頃だと考えられています。それ以前は男女の社会的格差はなく、卑弥呼や推古天皇など多くの女性リーダーが活躍していました。しかし、現在作られたジェンダーバイアスは日本ではもちろん、世界の多くの国で問題を引き起こし、たいていは女性が不利益を被っています。

たとえば、ジェンダーバイアスは女性の社会進出やキャリア形成を阻み、能力や資質に見合わない不当な待遇を強いることがあります。日本でも複数の大学で医学部の不正入試問題が発覚し、不当な差別で女子受験者の合格を減らす調整が行われたことは記憶に新しいところです。

大人が子どもに対し男女の固定観念を植えつけるような圧力をかけ、生き方や感情の表現を抑圧したり、制限をかけることもあります。「女の子がそんなことをするとお嫁の貰い手がなくなる」や、「男のくせに泣くなんてみっともない」などといった考え方です。

こうしたジェンダーバイアスを数値化するものとしてGDI(ジェンダー開発指数)、GII(ジェンダー不平等指数)、GGI(ジェンダーギャップ指数)がありますが、日本の順位が高くないことは容易に想像できます。事実、最新のGGIでは、日本は146か国中125位でした。とりわけ「政治参加」分野での女性進出の遅れが指摘されています。卑弥呼や推古天皇の時代は遠くなりにけり…といえるでしょう。

ジェンダー平等を目指して―― ジェンダーバイアスをなくす取り組み

女性も男性と同じように働き、社会を形成していくための男女共同参画基本法に加え、『ジェンダー平等』を目指す取り組みも進められています。政府は「女性版骨太の方針2023」において、プライム市場上場企業に対し2030年までに女性役員比率を30%以上にするという目標を盛り込んでいます。

女性が妊娠・出産後も働ける体制を整える企業も増えつつあります。出産前には胎児や母体を守り、産後は体力の回復に努めるため休職せざるを得ない時期があるのは事実です。しかし、長いキャリア人生から見れば短い期間に過ぎないため、女性が働き続けられる雇用体制を整えるほうが企業・社会にとってプラスになるという考えが広まったためです。併せて、男性が育児をすることを支援する育児休業などの取り組みも行われていますが、「育児は女性がするもの」というジェンダーロールが根強く、育休を取得する男性の不安はなかなか解消されていません。

小・中学生を対象としたある学習イベントで行われた「自分の通っている学校の校長先生」についてのアンケートでは、女性の校長先生が少ないことに対し「男子の方が偉いから」「女の人は責任を負うのが嫌だから」などが理由として挙がりました。身近にいる大人の様子が影響し、まだ社会に出ていない子どもたちがこのようにすでにバイアスにかかっていることは憂慮すべき問題です。まずは親や先生など周りの大人がジェンダーに関して学び、考え、あわせて、実際に女性の活躍を身近に感じられれば、子どもが育つ過程におけるジェンダーバイアスは薄まっていくはずです。

女性の非正規雇用率の高さや、説明できない男女の賃金格差などまだまだ課題はありますが、少しずつ改善が進んでいくことが期待されています。

企業による商品開発でも、社会的・文化的な性別にとらわれない『ジェンダーフリー』が進んでいます。男女を問わず遊べるままごとセットや着せ替え人形が発売され、お母さん人形からはエプロンが外され、おもちゃ売り場から「ボーイズ・ガールズ」の表記がなくなるなど、固定観念が取り外されようとしています。ドラマやCMでも、お父さんがお風呂掃除や料理をするシーンを見ることも多くなりました。さらには、「女性用の服はポケットがないなど男性用より機能性が低いことが多く仕事をするときに困る」といった指摘を受け、機能性が改善された商品が発売されるようになってきています。

学校でもジェンダーバイアスやジェンダーロールを取り除く取り組みが行われています。例えば、男子から女子の順ではなく、男女混合で作られた生徒名簿もそのひとつです。ひと昔前は、ランドセルも女子は赤、男子は黒が当たり前でしたが、カラフルな色のランドセルを背負った子どもたちを見かけるようになりました。こうした教育を受けた子どもたちが大きくなれば、ジェンダー平等な社会はもっと近づくかもしれません。

まとめ

社会的・文化的な「ジェンダー」による固定的な規範をひとつひとつ撤廃していく社会変化の陰には、たくさんの女性たちの闘いがあったことを忘れずにいたいものです。社会を動かすには、一人ひとりの意識が変わることが必要です。まずは、自分の中に性差に基づいた「こうあるべき」像がないかを見つめ、それを自分や他の人に期待したり押し付けたりしていないか、いま一度考えてみましょう。

[参考]
内閣府:
https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/seibetsu_r03/02.pdf
https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html

総務省:
https://www.stat.go.jp/data/shakai/2021/pdf/youyakua.pdf

独立行政法人 労働政策研究・研修機構:
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2019/documents/208.pdf
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/databook/2023/03/d2023_3T-06.pdf

NHK:
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231113/k10014253811000.html

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