ワークライフバランスの社会貢献性 キャリア形成を図るロールモデルがZ世代の力に

2019年から本格的に実施され始めた働き方改革は、すでに多くの企業で成果を上げてきました。働き方改革による企業のワークライフバランスの充実は、どの世代にとっても魅力的ですが、これから就職をするZ世代にとっては、企業を選ぶうえで重視する重要な選択肢ともなります。そして、このZ世代は働き方改革が持つ課題を解決するカギを握るとも期待されています。Z世代に象徴される日本の新しい働き方を考えます。

7割以上の会社が実施!? 働き方改革が実現したワークライフバランス

多くの企業が働き方改革を進めるにつれ、ワークライフバランスという言葉もおなじみになりました。ワークライフバランスとは、ワークとライフ、つまり仕事と個人の生活の調和がとれている状態を指します。

内閣府はワークライフバランスが実現した社会は、就労による経済的自立が可能な社会、特に若者がいきいきと働きつつ経済的に自立できる社会であるとしています。同時に、健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会であり、性や年齢などに関わらず誰もが様々な働き方や生き方に挑戦できる機会が提供されている社会であると述べています。

ある企業ではワークライフバランスに配慮した制度を導入したことで、離職率が約10分の1に低下しました。厚生労働省の調査でも「必要な休暇が取りやすい」などの取り組みを実施している企業では離職率が低下しています。
従業員の離職率が低い=「環境がよい会社」と認識されるため、企業のブランドイメージも向上し、さらなる良い人材を確保しやすくなるといいます。ワークライフバランスの実現は、働く人だけでなく企業にとってもメリットがある取り組みなのです。

ある調査では中小企業の7割以上、大企業では9割以上が働き方改革を実施していると回答しています。ところが、内閣府の調査によると、20〜60代の働いている人の8〜9割が「不本意ながらワークを優先している」と回答しました。多くの企業で制度が普及しつつも正しい理解が得られず、「育休を取得しづらい雰囲気がある」「前例が少ない」など、せっかく導入された制度を取得しにくい問題が存在していることがわかります。一方で、20〜60代で働いていない人の5〜7割が「不本意ながらライフを優先している」と回答しました。中でも、働いていない女性の回答は「不本意ながらライフを優先」している割合が正社員や非正社員と比べて高い傾向があり、働き続けたくても育児のために退職した人など、働きたくても働けない様子が見てとれます。
これらのことから、希望するワークライフバランスの実現に向けた問題解決が期待されています。

ワークライフバランスはZ世代の価値観にもマッチ Z世代の新ロールモデルとは

こうした社会の変化は、新しい世代の仕事への価値観にも影響を与えているようです。最近はいわゆるZ世代が話題に上ることが多いですが、彼らの生まれた1990年半ばから2010年代は、ちょうどワークライフバランスの意識が広がり始めた頃でもあります。

国は2011年と2017年に、16歳〜29歳の若者10,000人を対象に、仕事への意識調査を実施しました。それによると「仕事を選択する時に重視すること」として、2011年は収入の多さと安定をあげた人が多かったですが、2017年度になると福利厚生の充実や自宅から通えること、自由な時間が多いことや子育て・介護との両立がしやすいことを「とても重要」と考える人が目立ちました。また「仕事より家庭優先」と考える人は、52.9%から63.7%へと増加しています。

それに伴い、上司やロールモデルに求めるものも変化しているようです。大手人材派遣会社が新入社員に行った調査では、上司に期待することとして「仕事への情熱・言うべきことは言い、厳しく指導する」を選ぶ人は減少し、「一人ひとりに丁寧に指導し・意見に耳を傾け・ほめてくれる」上司を求める若者が増加しています。

もちろん、これはすべてのZ世代に当てはまるわけではないかもしれません。しかし「企業戦士」や「モーレツ社員」は消えつつあり、新しいワークライフバランス重視の価値観が多くのZ世代の価値観にマッチしているのは事実のようです。



働き方改革には課題も… 2024年問題解決のカギを握るのはZ世代?

働き方改革にはリスクもあります。もし業務量や仕事の進め方を変えないまま労働時間だけを減らせば生産性は減少し、逆に負担が増える人も出てくるかもしれません。2024年には物流・運送業界において時間外労働や拘束時間への新たな制限が加わりますが、そうなると人手不足や生産性の減少はより深刻化すると考えられています。

そんな中、Z世代はこうした問題解決のカギを握るのではと期待されています。たとえば、限られた労働時間で生産性を上げるにはIoT導入などによるDX推進が有効とされていますが、Z世代は生まれた時からパソコンやインターネット、SNSが身近にあり、インターネット利用者の20代への調査では、9割以上がSNSを利用していると答え、また別の調査ではZ世代の8割がゲームを経験しています。Z世代のうち、このようなデジタルに対して抵抗感が少ない人の中から、タイムパフォーマンスを重視した働き方改革を行う上で役立つアイデアやスキルを持つ人材が現れるかもしれません。

Z世代のモチベーションをアップさせ、さらに能力を発揮してもらうには、整備した制度や環境を利用する適切なロールモデルやメンターの存在も重要です。男性の育児・介護休業制度を整備し、Y世代(1980年?1990年代生まれ)女性のキャリア形成に尽力するなど、Y世代やその上のX世代(1960年代中頃〜1980年代生まれ)がワークライフバランスを実現することで、新世代に対応するロールモデルやメンターを形成できます。
これまでの社会のあり方では考えられなかったロールモデルの実施やメンターの登場は社会全体の働き方改革となり、広い世代のワークライフバランスの実現にも通じることでしょう。



まとめ

仕事とプライベート、両方の質の向上を期待しているのは、Z世代だけに限った特徴ではありません。すべての人がワークライフバランスを実現することで、よりよい社会の実現へとつながります。
一人のワークライフバランスが、人のため、特に若い世代のためにもなるかもしれないと考えると、自身がゆとりを持つことに意識を向けやすくなるかもしれません。

[参考]
内閣府:
https://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/20barrier_html/20html/charter.html

経済産業省:
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/seikatsu_seihin/pdf/002_03_00.pdf

厚生労働省:
https://www.mhlw.go.jp/content/000474499.pdf

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