広がるアニマルウェルフェア 地球環境と動物福祉に目を向け、動物と持続可能な共生を

近年、ペットは単に動物としてではなく、家族の一員として人生を共に過ごす大切な存在と受け止める人が多くなっています。また、保護猫や保護犬をお迎えすることができる譲渡会も増えています。このように、動物の命を大切に考える人がいる一方で、様々な動物たちの生活環境に配慮するアニマルウェルフェアについての理解は日本ではあまり進んでいません。国内で認知度が低いアニマルウェルフェアとは、どういう考えなのでしょうか? また、なぜ必要なのでしょうか?
動物たちの幸せも含めた持続可能な社会のために、私たちができることを解説します。

認知度10%…アニマルウェルフェアとは何か、知っていますか?

世界の動物衛生の向上を目的とする国際機関「国際獣疫事務局(WOAH)」では、アニマルウェルフェアとは「動物が生きて死ぬ状態に関連した、動物の身体的及び心的状態」と定義しています。やや分かりにくい表現ですが、農林水産省は、「家畜を快適な環境下で飼養することにより、家畜のストレスや疾病を減らすこと」と補足しています。

その指標として、世界獣医学協会の基本方針に謳われ、国際的に支持されているのが「5つの自由」です。この5つの自由とは、「① 飢えと渇きからの自由」「② 不快からの自由」「③ 痛み・障がい・病気からの自由」「④ 恐怖や抑圧からの自由」「⑤ 正常な行動を表現する自由」を指します。家畜はもちろん、家庭で飼育するペットや動物園や水族館の生き物を含め、すべての動物がこれらの自由を手にして暮らせるようにすることがアニマルウェルフェアだと考えられています。

これは必ずしも、動物を殺さない・利用しないという意味ではありません。動物の精神的・肉体的な苦痛を可能な限り減らしたうえで利用することが含まれます。

残念ながら、日本でのアニマルウェルフェアの認知度は高いとはいえません。2016年から行われている民間調査によると、「アニマルウェルフェア」の認知度は10%前後です。また国内の動物たちの現状は、世界水準から見ると良好とはいえない面があるのも事実です。一体どんな問題が指摘されているのでしょうか?

日本のアニマルウェルフェアの現状は? 畜産・ペット業界…山積する課題

国際的な動物保護活動を行っている世界動物保護協会(WAP)では、世界の動物保護体制の調査も実施しています。同協会の最新レポートによると、日本の動物保護指数(API)は50カ国中、A〜Gの7段間評価でトータルE、畜産に関しては最低ランクのGでした。

実際、畜産業界には様々な課題があります。たとえば、母豚を入れるための「妊娠ストール」「分娩ストール」と呼ばれる、振り返ることもできないほどの狭い檻や、倉庫のような鶏舎にぎゅうぎゅうに鶏を詰め込む「バタリーケージ」など、このような飼い方はEUはじめ多くの国では20年近く前から禁止されています。しかし日本では現在もまだ9割以上の生産者がストール飼いやバタリーケージを取り入れており、禁止・規制する法律もありません。鶏がお互いを傷つけないためにクチバシのトリミングをする「ビークトリミング(デビーク)」や、豚への麻酔なしの去勢も、今なお行われているのです。

畜産業界だけではありません。日本の動物園や水族館、サーカスなどでの動物の扱いについての具体的で詳細な規定はなく、また、化粧品の動物実験も続けられています。ペットブームのなかで特定の犬種だけが流行し、流行が終われば捨てられることもありますし、悪質なペットショップやブリーダーについてのニュースも後を絶ちません。

もちろん国によって文化や住宅事情も異なるため、すべての国が同じ基準でアニマルウェルフェアを実施できるわけではありません。日本の動物たちが5つの自由を保障されて暮らすためには、私たちの意識の変化と協力が不可欠なのです。

食物からファッションまで−アニマルウェルフェアを意識した暮らしのヒント

問題解決までには様々な課題が山積していますが、アニマルウェルフェアに基づいた取り組みが始まっています。生産規模が小さく、放し飼いで飼育している生産者はこれまでもいましたが、アニマルウェルフェアを意識して鶏や豚が自由に動きまわれる広々とした鶏舎や豚舎で飼養を行う生産者も登場しており、またそうした生産者から提供される肉や卵を優先的に使用するレストランやカフェ、小売店が増えてきています。ストレスのない環境で育てられた動物は健康的で薬を投与されることも少ないため、より安全で味の良い卵や肉を提供できるといいます。
また、テクノロジーの面では、大豆のたんぱく質を用いた本物そっくりの植物性代替肉が登場しています。見た目や食感、食べ応えも本物の肉と遜色なく、脂質が少なく低カロリーのため、健康意識の高い人だけでなく、病院や介護施設の食事でも取り入れられています。

ファッション業界では本物そっくりのフェイクファー、フェイクレザーが登場し、毛皮・革製品フリーの動きも見られます。青森では捨てられるはずのリンゴの搾りかすを使ったヴィーガンレザーが開発されました。アニマルウェルフェアにも、地球環境にも配慮された一石二鳥の取り組みです。

ペット業界でも2012年にはペットショップでの深夜展示が禁止され、2022年にはペットショップやブリーダーに、犬猫へのマイクロチップ装着が義務付けられました。飼育するケージのサイズや、飼育できる頭数も規定されています。

こうした取り組みに続いて、次に求められるのは私たち消費者が持つ意識の変化です。広い環境で豚や鶏を育てるのには多くのコストがかかるため、これらは肉や卵の値段に反映されます。また、本物の毛皮や革には本物ならではの良さがあることも確かですが、そのコストに含まれている背景を想像しながら選択することが必要となるかもしれません。
生活の中で何を優先して購買・消費行動を行うのか、動物を含めた持続可能な社会のため、一人ひとりの意識の変化が今、問われています。




まとめ

日本はアニマルウェルフェア後進国といわれていますが、動物を大切にする心を持つ人は決して少なくありません。家畜やペットとして生きる動物が健康的に暮らせる社会が進むためには、身近な製品をあらためて見直し、自分にできることからアニマルウェルフェアに基づいた行動へとシフトしていきたいものです。

[参考]
農林水産省:
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/animal_welfare.html
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/lin/l_siryo/attach/pdf/index-955.pdf
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/attach/pdf/animal_welfare-16.pdf

一般社団法人 日本養豚協会:
https://jppa.biz/zius/wp-content/uploads/2019/10/20190520.pdf

独立行政法人 農畜産業振興機構:
https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_002589.html

一般社団法人 アニマルウェルフェア畜産協会:
https://animalwelfare.jp/inquiry/

公益社団法人 日本動物福祉協会:
https://www.jaws.or.jp/welfare01/

World Animal Protection(WAP、世界動物保護協会):
https://api.worldanimalprotection.org/

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