クリーンミートとは 食糧不足や高齢化も救う? 持続可能な環境を守る、食のテクノロジー

地球の人口は、2050年には100億人に達すると予想されています。世界的な人口の増加や人々の食の変化により、畜産物の消費量はこの50年で5倍以上に増加しました。こうしたなか、食糧危機の問題を解決し、さらに地球環境にもやさしい肉「クリーンミート」が注目されています。私たちの食生活や社会環境を変えるクリーンミートの可能性を考えます。

大豆ミートの次に来る? エシカル食品「クリーンミート(培養肉)」とは

近年、健康志向に伴って食が変化しています。最近、スーパーでよく見かける「大豆ミート」はコレステロールやカロリーを減らすために選択されている代替肉のひとつです。大豆ミートは大豆に熱や圧力をかけて肉に見立てたもので、環境にやさしくヘルシー、さらに動物愛護やアニマルウェルフェアの観点からも支持を得て、日本でも普及し始めています。料理法によってはほとんど本物の肉と遜色ないほど、味や食感も改良されてきました。

そして今、次のエシカルな「肉」として期待を集めているのが「クリーンミート」です。
クリーンミートとは、牛や豚など畜産物の細胞を培養・成型して作られた「培養肉」のことです。牛や豚などから組織サンプルを採取し、細胞を分離してから培養液に浸して成長・増殖させます。その後、骨格筋や脂肪に分化し、分化したものを成型・加工すればクリーンミートのできあがりです。大豆ミートなど植物性タンパク質でつくられた代替肉と異なり、動物の細胞が元になっているので、成分自体は実際の肉とほとんど変わりません。

クリーンミートが注目されている背景として、近年の急激な人口増加と食生活の変化が挙げられます。人口増加の中心となっているのは、インドや中国、パキスタンなどの開発途上国です。これまで日本が歩んできたように、これらの国々では人口が増え、経済の発展に伴い食事も野菜中心から肉を中心とした西洋風の食事に変化しました。その結果、この50年で急増した食肉のニーズに、クリーンミートが応えると期待されています。

サステナブルな社会に貢献!? クリーンミート(培養肉)のメリット

クリーンミートにはさまざまなメリットがあると考えられています。まず、クリーンミートは地球環境にやさしいサステナブルな肉です。実は畜産は、私たちの想像以上に地球環境に影響を与えています。動物を育て、食肉にするまでの過程で大量の水を消費し、二酸化炭素やメタンガスを排出します。大規模な森林伐採も、その多くは家畜の飼料用の農地を確保するために行われています。2011年のオックスフォード大学とアムステルダム大学の研究チームの報告によると、クリーンミートに切り替えることで、水や温室効果ガスの排出量は現在の8割〜9割削減できる可能性があるとしており、SDGsに注目が集まる今、クリーンミートにも期待が高まっているのです。

日本は食料自給率が低く、畜産物の多くを輸入に頼っています。国内でクリーンミートが生産できるようになれば食肉の自給率はアップしますし、安定した供給が可能になれば日本はもちろん、多くの国の食糧危機問題も解決できるでしょう。
また、衛生的な環境で培養されるクリーンミートは鳥インフルエンザや狂牛病などの人や動物への感染症、抗生物質やマイクロプラスチックなど、人体に影響を及ぼすさまざまなリスクを避けられるメリットもあるのです。
さらに、クリーンミートは「天然の肉」に不足している栄養素などを人工的に補うことも可能で、栄養価を高めたヘルシーでおいしい肉が長い飼育期間や重労働をかけずに作り出せるかもしれません。

わずかな細胞だけで作り出せるクリーンミートは、アニマルウェルフェアの観点からも大きなメリットがあります。「肉は好き」「肉は食べたい」、でもそのために動物たちが悪い環境で飼育されたり、屠殺されることに心を痛める人や動物福祉に関心がある人にとって、クリーンミートは新たな選択肢になることでしょう。

再生医療にも貢献! クリーンミート(培養肉)の課題とこれから

約10年前、クリーンミートで作られたハンバーガーが世界で初めて披露されましたが、かかった費用は3,000万円以上でした。実際に牛や豚を飼育するにもお金はかかりますが、それでもハンバーガーのパテ1つで3,000万円は途方もない金額です。今ではクリーンミートのハンバーガーは1万円以下で製作が可能といわれており、さらなる技術開発に期待が寄せられています。

このように、さまざまな問題を解決できるとみられるクリーンミートですが、抵抗感を覚える人も少なくないでしょう。人工的につくられた肉への不安やコスト面での問題以外にも、畜産農家への影響も無視できません。また、「食べられるクリーンミート」を作るには、クリアしなければならない課題がまだまだあります。
ある研究者は10年以内には一般にも供給されると予想していますが、日本でもクリーンミートの商業生産を目指す企業は増えており、ある食品メーカーはすでにサイコロステーキ状の筋組織を作ることに成功しています。

近年、3Dフードプリンターを活用してすり身やペーストなどを原料に、本物そっくりの寿司ネタや野菜を作る技術が話題になっています。クリーンミートはこうした高齢者向けの介護食用の食材としても活用できるかもしれません。
小さな細胞から組織を培養する技術は、臓器などを作り出す再生医療の研究と通じるものがあります。クリーンミートの技術が確立されれば、再生医療の研究にも大きく役立つと期待されています。

まとめ

持続可能な生産であるクリーンミートは、人口増加、食糧危機問題、地球環境問題、アニマルウェルフェアなど、さまざまな問題を解決するとみられるエシカルでサステナブルな食品です。味も食感も「天然もの」と変わらない、研究室出身の肉や魚が食卓に並ぶ日も、そう遠くないかもしれません。

[参考]
農林水産省:
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/ohanasi01/01-04.html

FAO(国連食糧農業機関):
https://www.fao.org/home/en/
https://www.fao.org/3/i0680ja/i0680ja.pdf#page=30

オックスフォード大学:
https://www.ox.ac.uk/news/2011-06-21-lab-grown-meat-would-cut-emissions-and-save-energy

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