18歳の壁? 子どもの人権と児童福祉法の課題とは

児童養護施設や里親など、社会的養護を経験し、自立した人をケアリーバー(ケアを離れた人)といいます。彼らはこれまで18歳になると「18歳の壁」によりいきなり社会に投げ出され、頼る人もなく1人で生きていくことを余儀なくされてきました。ある日を境に「児童」ではなくなった彼らは助けを求められず、自立後に孤立に陥るケースが後を絶たなかったのです。
そこで、このような後ろ盾を失い厳しい状況に陥る子どもたちを救おうと、2024年4月から施行される児童福祉法の改正をはじめとした、様々な取り組みが始まっています。
社会的養護により暮らしてきた子どもたちが18歳を迎えた後に直面してきた問題と、これからの社会的支援や私たちができることについて考えます。

児童福祉法改正でも課題山積!? 児童養護施設入所者の「18歳の壁」とは?

様々な事情で保護者と一緒に暮らせず、社会的養護を受けている子どもたちは約4万2,000人以上おり、そのうち約2万3,000人が児童養護施設で暮らしています。児童養護施設に入所する子どもたちの数自体は徐々に減少していますが、近年増えているのが保護者からの虐待による入所者です。

児童福祉法や児童虐待防止法により、警察や児童相談所への通報のハードルが下がり、早い段階で子どもたちの保護につなげようとする雰囲気が社会で醸成されてきました。また、近年は精神的暴力もDVとして認知され、改正DV防止法によって心理的な暴力でも保護対象となりました。このような辛い経験をした子どもたちの心は大きく傷ついており、専門的な知識や経験を持つ職員のケアは欠かすことができません。

保護された子どもは児童養護施設やファミリーホーム、里親などの養護のもと、こうした施設で集団生活を送り、心身のケアを受けながら成長していきます。これまでの児童福祉法では「児童」といえるのは18歳までで、施設で暮らす子どもたちは原則18歳になると施設を退所し、強制的に独り立ちしなければなりませんでした。これがいわゆる「18歳の壁」です。

2024年4月から施行される児童福祉法の改正によりこの年齢の上限が撤廃され、必要だと判断される限り自立に向けたサポートが受けられるようになります。しかしまだまだ様々な課題が残ると考えられています。
そこで、これまで彼らが直面してきた「18歳の壁」の問題を見ていきましょう。

進学、就職、住まい…「18歳の壁」が引き起こす施設退所後の問題

家庭により事情はさまざまですが、18歳というと、親に買ってもらったスーツを着て新しい門出を迎えたり、家を離れる際には仕送りを受けつつ、親に契約してもらったアパートや寮で独り暮らしをスタートしたりと、まだまだ親のサポートを受けることが少なくない年齢だといえます。希望の大学に入るために浪人し、予備校に通うという選択をする子もいることでしょう。
しかし、社会的養護を受ける18歳は、このような充分なサポートを受けることが困難でした。施設を出なければならないため、住居費や食費など、生活していくための費用に加え、受験にかかる費用や入学金、授業料など経済的な不安が大きくのしかかることから、進学を諦めてきたケースが多かったのです。そのため、これまでの児童養護施設出身者の大学進学率は2割以下と低く、多くは高校卒業後に就職しています。

就職にしても進学にしても、施設を出るということは住む家が必要です。高校時代に学業を行いながらアルバイトをし、まとまったお金を貯めてから保証人のいらない物件を探すなど、部屋探しは簡単なことではありませんでした。
また、運よく保証人を引き受けてくれる人や、保証人の要らない物件が見つかっても引っ越しの手続きや光熱費の支払い、家事など、施設を出たばかりの18歳の若者にとってすべてを一人で行うのは大変なことです。

困ったときに周囲に精神的に頼ることができない環境で育つという経験から、無事に就職しても短期間で仕事を辞めてしまうケースも珍しくありませんでした。職場のことで悩んでもうまく伝えられなかったり、元の施設職員に頼りたくても個人情報保護の観点から連絡をとるのを断られたり、親が生きていたとしても経済的な問題や無関心、連絡を絶たれるなど周りに頼れる人が見つからず苦しんでいた子が多かったのです。加えて、使える制度があっても運用元が国や自治体、民間と様々で、支援にたどり着くことも困難なのです。

このように、これまでの彼らは夢や希望と一緒に大きな不安を抱えながら、いきなり社会の荒波の中へと放り出されていましたが、今回の法改正により「18歳の壁」は事実上撤廃されることになります。


「18歳の壁」を乗り越えるための支援――社会が守るべき子どもの人権とは

「18歳の壁」の事実上の撤廃に加え、彼らはこれからどのような支援を受けられるのでしょうか?
これまでも「18歳の壁」を乗り越えるための支援制度は少しずつ整備されており、文部科学省は2020年から高等教育の修学支援新制度をスタートしています。要件を満たしていれば大学授業料や入学金の免除、減額、返済不要の奨学金が受けられるようになったのです。さらに、2024年3月に高校を卒業し、大学受験を希望する生徒に対して受験料などを支援する事業も始まっています。
また、施設退所者向けの奨学基金制度を設置した自治体も出てきました。

家を借りる際には、施設長などが金銭的な面で安心して身元保証人になれるよう整備された「身元保証人確保対策事業」を利用できますし、2017年からは「自立支援資金貸付事業」も始まりました。本事業では、卒業後一定期間働くと返済が免除されます。

民間企業やNPO法人、クラウドファンディングなどからも、退所後、進学を希望する子どもたちへの奨学金などの支援の取り組みが行なわれており、なかには住宅や生活費の補助、ソーシャルワーカーが相談に対応してくれるタイプの支援もあり、以前に比べると社会のサポートは充実しつつあります。

しかし、現在は契約行為や進学・就職には保証人や緊急連絡先として家族のサインや同意が必要なことも多くあります。このため、家族の同意が得られないケアリーバーについて民間企業への周知も必要です。

このように、さまざま制度や支援が整ってはきていますが、社会的養護で育った子どもたちには、乗り越えなければならないハードルが多くあります。
私たちは、社会全体で彼らを守る意識をもち、彼らが必要としているときは手を差し伸べサポートしたいものです。また、クラウドファンディングや子どもたちをサポートしている団体に寄付することも、彼らの成長を応援する大きな力となります。



まとめ

児童養護施設や里親制度で育った子どもたちにとって、18歳での独り立ちは私たちの想像以上に過酷な現実です。法律上は「18歳の壁」が撤廃されても、周囲のサポートの継続は必要です。
生まれ育った環境によって左右されることなくすべての子どもたちの人権を守り、18歳という年齢にふさわしい夢や希望を持てるように支えることは、大人としての社会的責任といえるでしょう。

[参考]
内閣府:
https://www.cfa.go.jp/policies/shakaiteki-yougo/
https://kodomoshien.cfa.go.jp/no-gyakutai/

厚生労働省:
https://www.mhlw.go.jp/content/000833294.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000863975.pdf

東京都:
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/kodomo//katei/taishosha-chosa.files/r4-2-1.pdf

毎日新聞:
https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20221019/pol/00m/010/013000c

認定NPO法人 ブリッジフォースマイル:
https://www.b4s.jp/

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