女性活躍を後押し?リプロダクティブ・ヘルス/ライツにフェムテックが貢献

月経や妊娠・出産、更年期といった、少し前までは何となく話しづらかった女性特有の健康問題を、テクノロジーで解決・軽減しようという動きが起こっています。この「フェムテック」と呼ばれる新たな動きが注目を集める背景と、課題解決のためにどのような製品やサービスが登場しているのでしょうか?
女性の健康をサポートし、リプロダクティブ・ヘルス/ライツを守るフェムテックの今をご紹介します。

スマホで乳がん検診!? 女性の健康をテクノロジーで守るフェムテックとは

「フェムテック」は、「女性」を表す「フィーメイル(Female)」と「テクノロジー(technology)」という2つの単語を合わせた造語です。女性+技術、つまり女性特有の健康問題をテクノロジーで解決しようとするサービスや製品がフェムテックです。これは2012年にドイツの月経管理アプリをリリースした開発者が作った言葉で、まだあまりなじみがない人もいるかもしれません。

フェムテックに関するサービスや製品は日本でも数多くリリースされています。デリケートな部分を清潔に保ち、日常を快適に過ごすためのフェムケア製品や、オンライン診療によるピル処方サービスもそのひとつです。スマホやパソコンから医師の診察を受け、処方されたピルを自宅に郵送してもらうシステムで、病院に行くよりも手軽に低用量ピルへのアクセスが可能になりました。低用量ピルの服用により、月経前に起こる身体的・精神的な不調である月経前症候群(PMS)の改善や生理周期のコントロール、自身の意思による避妊が可能になります。生殖に関する健康と権利というリプロダクティブ・ヘルス/ライツの実現を、技術が後押しているのです。
ほかにも高性能の生理用下着や挿入型の生理用品である月経カップ、月経周期管理アプリ、妊娠・出産関連では手軽に使える妊娠検査キットや妊活用アプリ、緊急避妊薬(アフターピル)やミレーナと呼ばれる子宮内避妊器具の避妊リング、不妊治療の技術革新などもフェムテックです。
更年期障害に関連した製品では、代表的な症状であるホットフラッシュ(ほてり、のぼせ、発汗)の汗を吸収しやすい下着や体調の変化に気づきやすいウェアラブル端末などが開発されています。これらは女性の更年期を意味する「メノポーズ(Menopause)」という単語から「メノテック」とも呼ばれています。

女性特有の疾患の検査キットやメンタルヘルスに関連したサービスも充実してきており、現在ではスマホと小さな赤外線カメラを使った熱センサーで乳がんのセルフチェックができるシステムも開発されました。

2020年は日本における「フェムテック元年」といわれています。今後もフェムテック製品の開発はさらに進み、これまで以上に身近なものになっていくと考えられています。



社会とテクノロジーの進化が後押し―フェムテックが注目される背景

フェムテックが注目される背景にはいくつかの要素が挙げられますが、ひとつはテクノロジーの進化です。これまで我慢することが多かった女性の健康問題を技術で解決するために、研究・開発が活発に進んだことで便利なサービスや製品がより手軽に利用できるようになりました。

また、社会の変化もフェムテックの発展に大きく関わっています。女性の社会進出が進み、女性社員や女性役員が増えるにつれ、女性特有の健康問題を放置することは企業的・経済的損失になることに多くの人が気づき始めたのです。

月経に関する不調で仕事のパフォーマンスが落ちるという女性も多く、ある研究では、月経に伴う社会の経済的負担は年間約6,828億円で、そのうち約5,000億円が労働損失と算出されています。企業や家庭、その他の場所でも、女性が快適に健康的に活動することは女性自身にプラスになるだけでなく、企業や社会の生産性を上げることにも繋がっているのです。

女性特有の健康問題について、声を上げやすくなってきたという社会の変化もフェムテック躍進要素のひとつといえます。 ひと昔前までは月経や妊娠、更年期について人前で話しにくく、むしろタブーという雰囲気がありました。当の女性でさえ「月経は病気じゃないのでつらくても我慢すべき」「女性は痛みに強いから大丈夫」「痛みを耐えてこそ一人前の母になる」などと考える人が多かったため、つらくても表に出すことはよくないことなのだという価値観が存在していたからです。

そして近年、インターネットやSNSの復旧など社会の変化により、「子どもを持つ」「持たない」、子どもの数や出産間隔、無痛分娩、低用量ピルで月経のつらさを軽くするなど、個々の選択の権利は自分にあるということが認知されてきました。 このように、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念が急速に広まったことで、こうした悩みを持った女性が「自分だけではなかったんだ」「誰かに相談してもいいんだ」と安心感を持ち、さらに公の場でも話しやすくなったことから、フェムテックに注目が集まるのは自然の流れともいえるでしょう。



政府や企業も本腰を入れるフェムテックの今とこれから

政府もフェムテック活用に本腰を入れています。経済産業省では2021年度から「フェムテックを活用した働く女性の就業継続支援」を立ち上げました。これは、フェムテックを提供・導入する企業に経費の一部を補助(中小企業等は上限500万円)するというもので、すでに多くの企業が補助を活用し、さまざまな取り組みがおこなわれています。

いくつかの自治体でもフェムテックを積極的に活用しています。たとえば北海道余市町には産科がなく、妊婦さんは近隣の小樽市まで長距離通院する必要がありました。そこで、余市町は令和3年度の実証事業「周産期遠隔医療サービス」に参加し、モバイル胎児心拍陣痛モニターを妊婦さんに装着、小樽市の医師に遠隔健診を行ってもらうなど、通院の負担を緩和する検証を行っています。

また、子宮がんや乳がんなど、女性特有のがん検診はほとんどの場合自己負担で行われています。しかし、こうした検査は痛みへの不安や経済的負担に加え、忙しいとつい後回しになりがちです。そこで、これらの検診を福利厚生として導入する企業も増えてきました。

前述のスマホで行えるセルフチェックや、MRIを使った痛みの少ない検査機器など、女性の健康に関わる新しい技術や研究は日々進化しています。「フェムテック元年」を経て、今後の研究開発に期待が高まります。




まとめ

今やフェムテック製品を取り扱う企業は急増し、大企業もフェムテック市場に続々と参入し始めています。しかしこうした製品やサービスがどんなに充実しても、女性活躍の後押しに繋がる効果的な導入や活用には周囲の理解が欠かせません。
誰もが女性の身体に関する正しい知識を持ち、年齢や性別を超えたアンコンシャスバイアスを解消することが、女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツを尊重することにつながります



[参考]
経済産業省:
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/femtech/femtech.html
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/R2fy_femtech.pdf
https://www.femtech-projects.jp/
https://www.meti.go.jp/information/publicoffer/kobo/2024/downloadfiles/k240205008_1.pdf

東京都産業労働局:
https://women-wellness.metro.tokyo.lg.jp/columns/02/

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