ナラティブって知ってますか? 実は侮れない、愚痴や井戸端会議。話すことと聞くことが持つ力とは

2023.12.28

新型コロナウィルス感染症の流行により私たちをとりまく生活環境は変化し、多くの人が息苦しさを感じ不安な日々を過ごすこととなりました。不安なことや辛いことがあるとき、友達に話を聞いてもらってすっきりした――。そんな経験はありませんか? 今回は、「語る」「聞く」をベースにしたナラティブアプローチについて説明します。心理学から生まれたナラティブアプローチは、どのような方法でネガティブな考えからポジティブに置き換えるのでしょうか? 家族や友人など、普段の会話でも応用できる「聞き方のヒント」についてもご紹介します。
先行きが不透明な今だからこそ必要な、話す力・聞く力の大切さを再確認してみませんか。

「自分語り」があふれる時代―「愚痴」にも思わぬメリットが?

がっかりしたとき、悲しいことがあったときなど「自分の話を聞いてもらいたい」と感じたことはありませんか? 「井戸端会議」という言葉がありますが、自分の気持ちを話したり、愚痴を聞いてもらうことは、日常で行われてきたごくありふれた行為です。

暗いニュースが多く、先行きが不透明な今、誰かに話を聞いてもらうことが必要だと感じる人は少なくありません。実際、多くの人がSNSに投稿するのもその多くは「自分語り」です。

誰かに話を聞いてもらうと心が楽になるのは気のせいではありません。心理学では「誰かに話を聞いてもらうことですっきりする(カタルシス効果)」「考えが整理される(アウェアネス効果)」「相手との仲間意識を感じる(バディ効果)」という3つの効果があるといわれています。アメリカ・ハーバード大学心理学の研究者によると、私たちが自分の話をしているときに脳内で活性化される場所は恋愛や買い物、ギャンブル、薬物などで得られる満足感や快感と関係している部分と一致し、快楽物質であるドーパミンが分泌されているそうです。

気持ちが良いからこそ私たちは空気が読めずに自分の話しを語り過ぎたりしてしまうこともあるのです。しかし心理学では、この「語ること」を利用したアプローチがあり、そのコミュニケーションの方法が注目されています。それが「ナラティブアプローチ」です。

SDGs3、8実現にも繋がる!? ナラティブアプローチの手法と効果

ナラティブ(narrative)は、「語り・物語」などと訳されます。あまり聞きなれない言葉ですが、実は映画やTVの「ナレーション」もナラティブから派生した言葉です。

心理学のナラティブアプローチは、相談者に自分の話を語ってもらうところから始まります。どんなカウンセリングでも話を聞くことは大切ですが、ナラティブアプローチでは特に相手の話を傾聴し、十分に語ってもらうことが重要です。

次に行うのは、問題を客観的に見ることです。時には「自分の物語」に名前をつけることも行われます。話しているうちに自分で解決策や違う視点に気づくことはよくあることですし、無意識のうちに抱えている、自分自身を支配している葛藤や考えを、語りや名前を付けて距離をとることによって外在化すると、それまで自分の中にあったストーリーが変化していきます。このようにナラティブアプローチでは、適切な質問を行いつつ、自分の問題をこれまでとは違う視点から見られるように話し合うことで、ネガティブな物語をポジティブな物語に置き換えられるように助けます。
このナラティブアプローチの手法により、相談者は自分の問題を整理し、新しい視点から問題を解決することができるのです。自分の物語を聞いてもらい、上から目線のアドバイスではなく一緒にゴールにたどり着くことで、カウンセラーとの距離が縮まり、信頼関係も強くなるというメリットもあります。

話題のSDGsでも心身の健康の重要性を強調しています。ゴール3ではすべての人の健康と福祉、ゴール8では働き甲斐のある社会を掲げています。ナラティブアプローチによるメンタルサポートは、SDGsを達成し、持続可能な社会の実現にもつながっているのです。

聞く力をアップさせて問題解決へ―ナラティブアプローチ活用術

ナラティブは心理学以外でも活用されています。例えば、ビジネスでは作り手側のストーリーを強調するのではなく、消費者の物語を想像して商品を開発し、消費者を主人公とした販売を考えるという手法があり、これは「ナラティブマーケティング」と呼ばれます。
社内での人間関係にもナラティブは役立ちます。自分の話を否定せずに聞き、客観的に見られるように並走してくれる上司なら、部下の信頼も強まるものです。

看護や医療、介護の現場でもナラティブアプローチ、ナラティブセラピーが活躍しています。ある慢性期医療に特化した病院では、プロカメラマンが患者の写真を撮り、アルバムを作成して施設内の「物語の階段」に飾って患者さんの人生や想い出を共有したり、枕元に置かれた患者さんのノートにスタッフが書き込みをするなど、その患者さんの人生の物語をみんなで共有し大切にすることで、物語は肯定され、安心して過ごせる「ナラティブホスピタル」を目指しているといいます。

私たちが家族や友人との会話をするときにも、ナラティブアプローチを活用することができます。私たちの多くはカウンセリングの経験や知識などはありませんが、相手の話をじっくり聞くことはできます。アドバイスしてあげようという上から目線で聞いたり、途中でさえぎったり否定したりすることなく、まずは耳を傾け、十分に語ってもらうことが大切です。
私たちが「物語を聞く力」をアップさせることで、周りの誰かの不安や悩みを軽くするお手伝いができるかもしれません。また、相手の話を聞くことで、自分の中にある思い込みや自分のつらさへの解決策に気づくきっかけともなるのです。



まとめ

「井戸端会議」や職場・友人との会話の中で愚痴や自分語りをすることは、自分がするのも、相手がするのも否定的にとらえられがちです。最近ではSNS上での自分語りを「お気持ち表明」などと揶揄されることも少なくありません。
しかし「話すこと」「聞くこと」は、相手や自分の不安や悩みを軽くし、問題解決の手助けとなる力があります。誰かの言葉に触発され、会話が広がり、新たな気づきを得ることもあるでしょう。ぜひ自分の語る力、聞く力をアップさせて、大切な人の支えになりたいものです。

[参考]
社会福祉法人 福岡市社会福祉協議会:
https://fukuoka-shakyo.or.jp/user/media/fukuoka-shakyo/page/6chiikifukushikeikaku/3/3-5.pdf

一般社団法人 日本医療コミュニケーション協会:
https://medcommu.jp/2020/09/16/column25/

Yahoo!ニュース:
https://news.yahoo.co.jp/feature/1659/

生きのびるブックス株式会社:
https://ikinobirubooks.jp/series/nobuta-sayoko/1088/

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