バイオとテクノロジーで進めるカーボンリサイクル 持続可能な環境で創る、より良い未来

地球温暖化対策には、二酸化炭素を含めた温室効果ガスの排出量削減が欠かせません。そこで、排出された二酸化炭素を回収し、再利用するのがカーボンリサイクルという考え方です。地球環境を破壊する悪いものとして扱われている二酸化炭素を「資源」として捉え、リサイクルすることでカーボンニュートラル、つまり二酸化炭素排出をプラスマイナスゼロに抑えようとする試みをご紹介します。

二酸化炭素利用で地球温暖化対策 カーボンニュートラルの必要性

地球温暖化の原因のひとつが、二酸化炭素を中心とする温室効果ガスです。世界では毎年300億トン以上の二酸化炭素が排出されていますが、日本はそのうちの10億トンを排出しており、この量は世界ランキング5位です。

そこで目標とされているのが、二酸化炭素を出さない努力に加え、二酸化炭素を吸収する量を増やすことで、排出量を差し引きゼロにしようというカーボンニュートラルです。これは地球温暖化を抑止するだけでなく、経済成長をストップさせないためにも必要な、現実的な目標です。

これを達成するためには、二酸化炭素の回収・貯留(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)、さらに回収・貯留した二酸化炭素の再利用(CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)などの技術が不可欠です。CCUSで回収した二酸化炭素は、「直接利用」または「カーボンリサイクル(変換利用)」することで有効活用されます。

直接利用の例では、古い油田などに二酸化炭素を注入して残っている原油を押し出すことで回収率を上げる「原油増進回収(EOR:Enhanced Oil Recovery)」や、二酸化炭素に圧力をかけ凍らせて製造するドライアイス、金属を加熱するときに二酸化炭素を使用するCO2溶接や、ハウス栽培の野菜や花に二酸化炭素をかけて光合成を促す成長促進剤などがあります。

しかしこのような形で二酸化炭素を直接利用するだけでは、利用できる量は限られています。二酸化炭素をより積極的に活用するため、近年、カーボンリサイクルが注目されています。

バイオ技術が二酸化炭素を炭素資源に変える? 日本発カーボンリサイクルとは

カーボンリサイクルは、二酸化炭素を「炭素資源」としてとらえ、製品や燃料に変換して利用する方法です。

そのひとつが、コンクリートなどの材料としての活用です。二酸化炭素を吸収して固めたコンクリートブロックは、すでに広島県や島根県の道路に使用されています。ただし、この方法で作られたコンクリートは中に金属を入れると錆びやすいという欠点があるため、今後建物などで使用できるよう、さらなる技術開発が進められています。

ほかには二酸化炭素を使ってポリカーボネートやポリエチレンを作る技術も開発されており、すでに実用化されています。二酸化炭素を利用して作られたこれらの素材は、パソコンやポリ袋、プラスチック容器など、幅広く利用されており、いずれは衣料品や建築資材にも活用できるそうです。

カーボンリサイクルのなかでも特に注目されているのがバイオものづくり技術の活用で、そのひとつが二酸化炭素を吸収する「藻」を培養して生成するバイオ燃料です。藻の種類によっては光合成の時にジェット燃料やディーゼル燃料の元になるオイルを作り出し、別の藻は有機物を分解する際にバイオガスを生成するので、これらを抽出し燃料にします。

このバイオ燃料は、燃料として使用する際には二酸化炭素を排出しますが、製造段階で大量の二酸化炭素を吸収しているため、二酸化炭素の排出量はプラマイゼロであると考えることができるのです。

循環型で持続可能な社会の実現へ―クリアすべきカーボンリサイクルの課題

二酸化炭素の回収プラントの実績では、世界の中で日本はトップシェアを誇り、研究機関や工場、企業、大学などが多数存在する地域では産学官が連携した研究開発が始動しています。現在、東京湾岸地域ではカーボンリサイクルを研究する「東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会(ゼロエミベイ)」が立ち上げられており、苫小牧市、福島県浪江町などでも同様に拠点の整備が進められています。

しかし、実用化に向けた製品のコスト低減や産業間・国際間の連携、カーボンリサイクルに対する国際的な評価の仕組みの整備、さらにカーボンリサイクルに携わる研究者の育成などの人材面と、さまざまな課題が残されています。

資源エネルギー庁が策定している「カーボンリサイクルロードマップ」によると、まず2030年までにカーボンリサイクルに貢献する技術開発を推進し、そのうえで2050年頃から、カーボンリサイクルによる製品の利用拡大を狙うとしています。カーボンリサイクルにかかる費用は今の4分の1以下に、最終的には2億〜1億トンの二酸化炭素のリサイクルを目標にしています。前述のように日本は現在10億トンもの二酸化炭素を排出しているので、これが実現すれば単純に計算しても排出量の最大5分の1をリサイクルできることになります。

日本は2050年に二酸化炭素排出量をプラマイゼロにするカーボンニュートラルを目標として掲げています。カーボンリサイクルはその目標に一役買い、持続可能な社会の実現に役立つだけでなく、新しいイノベーション創出にも貢献するでしょう。


まとめ

悪いものと考えられがちな二酸化炭素ですが、人間は科学の力によって二酸化炭素を利用し、二酸化炭素から新しい製品を作り出そうとしています。太陽の光と水、二酸化炭素だけで日々、静かにデンプンを作り続けている植物にはまだまだかなわないものの、二酸化炭素を使った「人工光合成」にも期待したいところです。

[参考]
経済産業省:
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_recycling.html
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/carbon_recycle_rm/pdf/20230623_01.pdf
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_recycling2021.html
https://www.nedo.go.jp/carbon-recycling/2023/230927.pdf

環境省:
https://www.env.go.jp/earth/brochureJ/ccus_brochure_0212_1_J.pdf

東京湾岸ゼロエミッションイノベーション協議会:
https://unit.aist.go.jp/gzr/zero_emission_bay/index.html

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構:
https://webmagazine.nedo.go.jp/pr-magazine/focusnedo84/sp1-3.html

国立研究開発法人 産業技術総合研究所:
https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20220907.html

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