SDGsの2番目のゴールは「飢餓をゼロに」です。
だれもが年間を通じて安全で栄養のある食料を調達できるようにするためには、フードロス対策のほか、アグリテックやバイオテクノロジーなどを活用し、生産性を上げることが必要です。
本コラムでは、SDGs2の問題を解決する手段として期待されるテクノロジーの将来性と、日本において食品自給率を上げることの重要性について解説していきます。
SDGs2とは?
SDGs2「飢餓をゼロに」は、世界中から飢餓をなくすために掲げられたゴールです。
このSDGs2では達成に向け、いくつかのターゲットが設けられています。
まずは、2030年までにあらゆる形態の栄養不良を解消し、全ての人々が安全で栄養のある十分な食料を年間通して得られるようにし、飢餓をなくしていくとしています。
そのためには、農家・牧畜家・漁家の生産性と所得を倍増させる必要があり、持続可能な食料生産システムを確立し、レジリエントな農業を実践することが重要となっています。
また農家の生産性を上げていくためには、種子・植物バンクなどを通じて、遺伝資源やそれに関連する伝統的な知識の利用と、利用から生じる利益の公正・公平な配分を促進する必要があるといいます。
国連の統計によると、2021年には世界の飢餓人口は最大8億2800万人に上るとしており、世界人口の約10%近くにもなります。
しかも、新型コロナウィルス感染症のパンデミックやロシアのウクライナ侵攻の影響により、この数字は記録的水準を保っています。世界の飢餓人口は1990〜92年と比べれば減少しているものの、近年ではまた増加しており、危機的状況といえます。
また、現在、気候変動により自然災害が多発しています。この自然災害による干ばつや洪水などで農産物の収穫が激減し、飢餓に拍車をかけることになります。
世界中で飢餓に苦しんでいる人たちを救い、SDGs2を達成するためには、自然災害にも強い持続可能な農業ができるようにしていくことが急務です。そのためには災害に強く、農業を支援するテクノロジーや派生ビジネスなどを活用した農業全体の活性化を進めていく必要があります。
アグリテック、バイオテクノロジーに寄せられる期待
持続可能な農業ができる技術として、近年では「アグリテック」が注目されています。
アグリテック(AgriTech)とは、農業(アグリカルチャー/Agriculture)と技術(テクノロジー/Technology)を組み合わせた新たな造語です。 農業に対して、AIやIoT、ビッグデータ、ドローンなど、新たなテクノロジーを活用して生産性を上げていこうという取り組みのことを指しており、SDGs2達成のための切り札といわれています。
アグリテックを活用することにより、農産物の収穫量を増やすことができるようになります。例えば、農地に設置したセンサーで気温や湿度などを管理できるIoTと組み合わせるほか、ドローンで農薬を自動散布したり、作物の育成状況の判断をAIに任せることで、生産性を上げていくのです。
また農業の生産性を上げていく手段として、アグリテックと同時にバイオテクノロジーも注目されています。
植物の成長特性や成分を品種改良によってより良くしていくバイオテクノロジーは、農作物をより安定して高い収穫量を得られるために期待されているのです。例えば世界30ヶ国に拠点を持つデンマークのバイオテクノロジー企業では、アフリカのケニアへ農業支援を行い、農作物の収穫量を10%増やすなど、成果を上げています。
現在、アグリテック市場もバイオテクノロジー市場も順調に成長を続けています。
アグリテック市場は、2022年の約242億8700万ドルから2030年には約773億6600万ドルにもなると予測されています。2022年〜2030年の間に年18%の割合で成長していくのです。
また、バイオテクノロジー市場は人口や食糧需要の急増などにより、2020年から2030年にかけて年率9.8%で成長を続け、2030年には1150億ドルになると予測されています。
日本における食糧自給率とフードロスの問題
最後に、日本の食料問題についてです。
日本では、大半の人たちが安全で栄養のある十分な食料を日々得ていますが、この状況は、極めて脆い状況の上に築かれていると言えます。
日本の食料自給率(カロリーベース※1)は38%にすぎず、先進国の中では最低水準となっています。この数字はひとたび食料輸入がストップしてしまえば、飢餓状態に陥る日本人が数多く発生してしまうことを示しています。
この食料自給率の低さは、農業人口の高齢化や人口減少、少子化などが大きな要因となっています。そこで国内農業を持続可能にし、食料自給率を上げていくためには、先ほど説明したアグリテックの普及が重要です。すでに、都市部での野菜の生産を可能にするスマートファームや、ビックデータを活用した自動栽培のシステムが活用されています。
食料自給率を向上させるためには、国産の農作物に対する意識の改革や、農業就労へのモチベーションをアップすることも必要です。消費者側にできることとして、旬の素材を積極的に食事に取り入れたり、国産あるいは地元のものを積極的に食べて(地産地消)生産者や地元の産業を応援するなど、一人ひとりの心がけがとても大切です。
また、食料に関する日本の大きな課題として、フードロスがあります。日本では、約6割強の食料を輸入している一方で、年間522万トン(2020年度)ものフードロスが発生しています。この数字を日本人1人当たりに換算すると、年間約41kgもの食料を捨てていることになり、これは世界中で飢餓に苦しむ人たちへの食料支援の量(年間約420万トン)の1.2倍にも相当するのです。
フードロスを減らすと同時に、まだ食べられる状態の食料を有効に活用する、賞味期限を延ばす技術の開発などに取り組んでいくことが求められます。
そうすることで、日本国内の食料問題の解決に寄与できるのと同時に、世界全体の飢餓問題の解決に一歩近づくことができるでしょう。
※1 食料自給率(カロリーベース):ある国が自国で生産された食品でどの程度自給できているかを表す指標。具体的には、その国で生産された食品のカロリー総量を、その国の消費カロリー総量で割った値として計算されます。
まとめ
世界の飢餓人口は現在も増加しており、その飢餓をなくすためにSDGs2「飢餓をゼロに」が定められています。アグリテックやバイオテクノロジーを活用し農産物の収穫量を上げていくことでで、SDGs2達成へと近づけるでしょう。
また、私たちが今すぐにでもできることとして、毎日の生活の中でフードロスを減らしていくことがあります。フードロスを削減することで、削減できた分の食料を飢餓に苦しむ人たちへと供給できる可能性が広がります。
[参考]
農林水産省:
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/sdgs/goal_02.html
https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/220609.html
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/161227_4.html
消費者庁:
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/education/
日本ユニセフ協会:
https://www.unicef.or.jp/news/2022/0136.html
日本財団:
https://www.nippon-foundation.or.jp/journal/2023/84322/food_loss?gclid=CjwKCAiA_6yfBhBNEiwAkmXy58AJjyKRUzaURM3Lk-f-H5VqmHvFMRP9LZzGkw7NZPGQEVthgCMu_BoCV3EQAvD_BwE
一般社団法人 農協協会:
https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2022/07/220708-60216.php
朝日新聞デジタル:
https://www.asahi.com/sdgs/article/14648618#h173sl4l439iaa3u3hd15z0prl1k2rb3m
EduTownSDGs:
https://sdgs.edutown.jp/info/goals/goals-2.html