インクルージョンとダイバーシティの違いは? 教育や職場で真の理解を促す

最近、ビジネスの現場で「インクルージョン」という言葉がよく使われるようになりました。「ダイバーシティ」と並列されて使われることも多いインクルージョンですが、どう違うのでしょうか。
そこでここでは、インクルージョンについて解説していきます。

インクルージョンとはなんだろう?

インクルージョンを日本語に訳すと「包摂」、「包括」、「包含」などという意味を持っています。

旅行で考えると分かりやすいかもしれません。旅行が好きな方であれば、オールインクルーシブという言葉を一度は聞いたことがあると思います。これは、旅行代金にホテル滞在中のさまざまな費用がすでに包含されているプランのことです。

これをビジネスシーンに置き換えると、インクルージョンは、企業内や組織内で働くすべての従業員それぞれが持つ経験や能力、信教、信条などが認められて仕事に参画している状態のことになります。

それではインクルージョンに似た用語であるダイバーシティとの違いはなんでしょうか?

ダイバーシティとは日本語にすると「多様性」と訳されます。多様な人材を活かしていくことはインクルージョンに近い意味を持ちます。

インクルージョンのターゲットは“個人”です。組織に所属する人が制約なく働ける環境とどのように活躍できるのかに焦点を当てています。
ダイバーシティのターゲットは“組織”です。組織の中で多様な“人材”が存在することを認めること自体に焦点が当たっているという違いがあります。

福祉や教育の考え方として普及したインクルージョン

インクルージョンは、1980年代のヨーロッパで福祉の概念として誕生しました。

薬物依存症や不安定な就労者など、社会的に排除された貧困層がヨーロッパで多く発生しました。その社会的弱者といえる人たちを社会の中で支えていく必要性が提唱され、それがインクルージョンの概念につながっていきます。

教育の分野では、1990年代ごろからインクルージョンの考え方が取り入れられました。

それまでは、障がいの有無にかかわらず、そのうえで同じ教室で教育を行っていく「インテグレーション教育(統合教育)」が導入されていましたが、これを発展させた考え方として、「インクルーシブ教育」が普及しました。

インクルーシブ教育とは、障がいの有無にかかわらず、子どもたち一人ひとりの個性に合わせて合理的配慮をしながら行う教育のことを指します。

インテグレーション教育とインクルーシブ教育はよく似ていますが、インテグレーション教育では、結果的に「同じ場で教育を受けること」が重視されてしまったのに対し、インクルーシブ教育は「同じ場で、障がいの有無にかかわらず一人ひとりに合わせた教育内容を提供する」ことに重きを置いている、という違いがあります。

このように福祉や教育の領域で使われていたインクルージョンの概念ですが、近年ではビジネスの世界でも注目されるようになりました。




企業・組織がインクルージョンを推進する上で押さえたいポイント

企業や組織がインクルージョンを推進していくためには、以下のようなポイントを押さえておく必要があります。
インクルージョンの推進が掛け声だけで終わらないよう、社内の体制や制度を整備しておきましょう。

■社内の体制や制度を整備する
人材が多様になるということは、評価方法が1つの基準・尺度ではカバーできなくなるということです。社員一人ひとりを客観的・公平に扱えるよう、新たな人事評価制度を用意する必要があります。
また、障がいがある人を迎え入れるときにはバリアフリーのオフィスへと変更していくなど、体制や風土だけでなく、社内環境も整えていく必要もあります。

■社内の意識改革を行う
体制や制度を変えるだけではインクルージョン推進は十分ではありません。管理職はもちろん一般社員も含め、インクルージョンの考え方を理解するための研修などを行い、社内の意識改革をしていく必要があります。

■年代や役職に関係なく発言できる社風へ
インクルージョンを実現するためには、従業員の年代や役職などにこだわらず、誰とでも自由に、そして公平に発言できる社風にしていきましょう。

■経営陣のコミットが必要
自社・自組織にインクルージョンを導入するためには、経営陣がコミットしていく必要があります。経営陣の理解と協力が得られなければ、改善のための行動や採用を推進することができないからです。
そうすることで人的資源を最大限に引き出せるようになります。

まとめ

これからの企業や組織にとって、インクルージョンの推進は大きな経営課題となっていきます。
人材の多様性を認める考え方(ダイバーシティ)と、社員それぞれの個性を活かす考え方(インクルージョン)は、どちらも組織運営にとって重要ですので、それぞれの特徴を考えながら、バランスよく整備されていくのが理想的です。

[参考]
内閣府:
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je19/h02-01.html

経済産業省:
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/index.html

厚生労働省:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/0000088194_00001.html

公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会:
https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/rehab/r093/r0930003.html

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